大阪地方裁判所 昭和60年(行ウ)34号
原告
千代田工業株式会社
右代表者代表取締役
遠越英行
右訴訟代理人弁護士
前原仁幸
同
中安正
同
兒嶋かよ子
被告
大阪府地方労働委員会
右代表者会長
寺浦英太郎
右指定代理人
松田隆雄
同
横溝幸徳
被告補助参加人
全日本港湾労働組合関西地方本部
右代表者地方執行委員長
山本敬一
右訴訟代理人弁護士
大川一夫
同
平尾孔孝
同
甲田通昭
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は全部原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告が昭和六〇年(不)第二号千代田工業事件について昭和六〇年五月二八日付でした命令を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 補助参加人(以下「参加人組合」ということがある。)は、被告に対し、原告を被申立人として不当労働行為救済の申立をしたところ(昭和六〇年(不)第二号千代田工業事件)、被告は、昭和六〇年五月二八日付で別紙命令書記載の命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書は、右同日原告に交付された。
2 本件命令には、次のとおり、これを取消すべき違法事由がある。
(一) 被告は、本件命令において、参加人組合は、全国の港湾産業及び関連産業で働く労働者で組織する個人加入の単一労働組合である全日本港湾労働組合の地方組織であり、労働組合法(以下「労組法」という。)三条にいう労働者により組織された適法な団体であると認定している。
然しながら、労組法三条によれば、労働者は、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいうものとされているから、まず特定企業の賃金支払者があって、その者から自己の労働力を評価されて賃金の支払いを受けることにより初めて右規定にいう労働者たる地位を取得することになるわけであり、右賃金支払者が存在しなかったり、不特定であったりしては賃金生活の保持が困難、ひいては不能となることは明らかであるから、このような場合には労働者たる地位を取得するに由ないことになるのである。そして、右のような意味での賃金生活者たる労働者が主体になってその団結権限を行使して労働組合を結成するのであるから(労組法二条本文)、その労働組合規約には、特定企業で雇用される従業員として労働組合を結成する旨所定することになり、また、従業員が、個々若しくは一部少数者ではその他の多数の従業員を代表する権限がないから、特定企業の従業員が全員、少なくともその過半数が結集して初めて適法な労働組合が結成されることになるのであって、ここに、わが国においてはいわゆる企業別組合が支配的大勢として定着している理由が存するのである。
然るに、参加人組合は、被告の認定したところによると、特定の企業とは関係なく、特定産業に属する複数企業で働く労働者が、いわば横断的に組織、結成した横断的組織の労働組合というのであるから、その組合員は、その者がたまたま特定企業の従業員であったとしても、そのような者として労働組合の結成等のいわゆる団体行動権を行使しているものとはいえないのであって、結局特定企業との結び付きを欠くことになり、従って、横断的組織の労働組合に加入している者は、団体行動等で労働者としての利益を主張する相手方が誰であるのか、その使用者(賃金支払者)を特定できないのであって、労組法三条にいう労働者とはいえないのである。
そうすると、参加人組合は、これを組織する組合員が労組法三条にいう労働者とはいえないのであって、労組法上の適法な労働組合とはいえないのであるから、本件命令は、この点において判断を誤っており、違法である。
(二) 被告は、本件命令において、原告が、参加人組合にとり労組法上の使用者にあたる旨認定し、参加人組合が原告と団体交渉する権利を有するとしている。
然しながら、労働者が有する団結権、団体交渉権等の権利は、使用者に対して労働条件上の利益主張ができることを内容とするものであるから、その利益主張の相手方たる使用者についても労働者が自らこれを確定できる権能を有するものというべきであり、これを原告会社に則していうと、原告会社の従業員のみが、原告会社を自己らの労組法上の使用者であると確定できる権能を有するものというべきである。従って、原告会社において労働組合の結成、加入ができる者は、原告会社の従業員のみであって、原告会社以外の他企業の従業員は、たとえ原告会社の従業員と合同してみても、原告会社を労組法上の使用者として労働組合を結成し、原告会社と団体交渉する権利等を取得することはできないといわなければならない。もし、このようなことが是認されると、労働組合が社会運動の組織として行動することを助勢することになり、著しく不当な結果を招来することになる。
ところで、原告会社においては、原告会社の従業員が組合員となって労働組合を結成した事実はないから、原告会社を目して労組法上の使用者である旨主張できる労働組合は一切存在しないのである。
従って、参加人組合が、いかに原告会社を目して労組法上の使用者である旨主張し、原告会社との団体交渉を求めてみても、参加人組合は、原告会社の従業員が組合員となって結成した団体ではないから、原告会社は、参加人組合にとり労組法上の使用者にあたらないことは明らかであって、本件命令は、この点において判断を誤っており、違法である。
(三) 被告は、右(一)、(二)に記載のとおり、参加人組合が労組法三条にいう労働者により結成された適法な労働組合であるとか、原告が、参加人組合にとり労組法上の使用者にあたる旨認定し、右認定事実に基づいて本件命令を発している。
然しながら、被告労働委員会は、不当労働行為事件の審査において、準司法的権限を有するものとしても、その権限の内容は曖昧であって、なお有権的な解釈が確立していないところであり、加えて単に行政機関たる性格しか有しないことも合わせ考慮すれば、司法裁判所をさし置いて労組法上の解釈、適用をする権限まではないといわなければならない。訴外永島庸(以下「訴外永島」という。)はじめどのような者が労組法三条にいう労働者にあたるのかは、当の本人のみが、同条該当性の有無を自証できるだけであると解されるし、どのような者が労組法上の使用者として救済命令の名宛人になるのかについて、労組法は、使用者に関する定義規定をおいていないことからも、被告に認定権限はないというべきである。
然るに、被告は、右のとおり、参加人組合が労組法三条にいう労働者により結成された適法な団体であるとか、原告が、参加人組合にとり労組法上の使用者にあたる旨認定しているのであるが、それは、本来許されざる権限の行使であって、違法である。
(四) 被告は、本件命令において、参加人組合が訴外永島を代表する権限を有する旨認定し、訴外永島の解雇問題について、原告と団体交渉をする権利を有するとしている。
然しながら、参加人組合は、原告会社の従業員が組合員となって結成した団体ではないから、参加人組合が代表する組合員は、原告会社の従業員というわけではなく、従って、参加人組合は、原告会社の従業員を代表する団体とはならないのである。そして、この理は、参加人組合に、たまたま原告会社の従業員が加入していても、何ら異なることはないのである。何故なら、参加人組合に加入している原告会社の従業員は、原告会社の従業員が組合員となって結成している団体に加入しているわけではないから、このような場合、原告会社の従業員として労働組合の結成、加入等の権限を行使しているとはいえず、従って、このように原告会社従業員としての権限の行使がない以上、参加人組合が原告会社従業員を代表することにはならないからである。
そうすると、仮に訴外永島が原告会社の従業員であり、かつ、参加人組合の組合員であったとしても、参加人組合が、原告会社従業員が組合員となって結成した団体ではない以上、訴外永島を代表する権限はないというべきであるから、本件命令は、この点において判断を誤っており、違法である。
(五) 被告は、本件命令において、参加人組合が労組法上の使用者を確定しうる適法な労働組合である旨認定している。
然しながら、参加人組合は、被告が認定したところによっても、前記のとおり、全国の港湾産業及び関連産業で働く労働者で組織された団体であるというにとどまり、その組合規約上組合員らに対して賃金を支払う者を特定、具体化していないから、自己の団体組織に対する労組法上の使用者を確定していないものといわざるを得ないのである。
そうすると、参加人組合は、その組合員が労組法三条にいう労働者として、その使用者を特定、具体化して労働組合の結成、加入等の団体行動の権限を行使していないことになるから、労組法三条但書四号のいわゆる社会運動が目的の団体であるということにはなっても、同条本文所定の適法な労働組合であるということはできないのであって、本件命令は、この点において判断を誤っており、違法である。
(六) 被告は、本件命令において、参加人組合のような横断的組織の労働組合であっても、労働組合と特定企業との結び付きの有無は、労組法上何ら労働組合としての要件とされていないとして、やはり参加人組合を労組法上の適法な労働組合である旨認定している。
然しながら、横断的組織の労働組合を労組法上の適法な労働組合であると認めると、労働組合の結成は、特定企業との結び付きが要件とされなくなるから、組合員となる者をどのように定めるかは労働組合の自由に任せられることになり、その結果、個々の労働者は、複数の労働組合に加入する自由が認められ、特定の同一労働者が複数の労働組合から代表されることにもなりかねず、かくては同一企業で労働者を代表する労働組合が特定、単一のものに限られなくなるばかりか、複数多重化するおそれもあるのであって、これでは労働組合が労働者を代表して使用者と団体交渉をするという労働者代表制を否定することに繋がり実際的妥当性を失なうといわなければならない。
従って、横断的組織の参加人組合が労組法上の適法な労働組合であるとした本件命令は、判断を誤っており、違法である。
(七) 被告は、本件命令において、原告に対し、参加人組合と団体交渉をするように作為を命じている。
然しながら、救済命令で団体交渉の作為を命じる場合は、労使間でそのような作為を命じうる制度化した事実、例えば、団体交渉に関する労働協約、労使慣行等の事実が必要であると解すべきであり、このような事実がないのに団体交渉の作為を命じることは、労働委員会の公権力行使の裁量を越えているというべきである。何故なら、労組法七条二号は、団体交渉の拒否を不当労働行為として禁止しているだけにとどまるから、団体交渉拒否に対する救済命令は、団体交渉の拒否を禁止するのが原則であって、それ以上に団体交渉の作為を命じるにはそれを命じるだけの制度的根拠が必要だからである。
本件においては、原告と参加人組合との間に、団体交渉の作為を命じられる制度化した事実がないから、前記のように原告に団体交渉の作為を命じた本件命令は、違法である。
(八) 被告は、本件命令において、原告に対し、訴外永島が原告の雇用する労働者であるとして、訴外永島の解雇問題について、参加人組合と団体交渉するように命じている。
然しながら、訴外永島は、昭和五七年四月二二日原告会社に雇用期間一年の約定で雇用され、その従業員となったけれども、昭和五八年四月二一日限り、右雇用期間の経過により原告会社を退職したから、右同日以降原告会社の従業員たる地位にはなく、労組法七条二号にいう使用者(原告)が雇用する労働者とはいえないのである。従って、原告は、訴外永島の解雇問題について、参加人組合と団体交渉をすべき義務はないというべきであるから、右団体交渉を命じた本件命令は、違法である。
(九) 右(八)の主張が理由がないとしても、訴外永島の解雇問題なるものは、訴外永島個人の問題であって、このような特定の労働者個人の労働条件等については、本来労働組合には当該労働者を代表する権限はなく、専ら労使対等の立場で決定さるべき事項として、原告と訴外永島との間で協議、決定さるべき筋合のものであり、労働組合の団体交渉事項とはなりえないものというべきであるから、いずれにしても、原告は、訴外永島の解雇問題について、参加人組合と団体交渉をすべき義務はないというべきであって、右団体交渉を命じた本件命令は、違法である。
(一〇) 訴外永島は、原告を相手取り、大阪地方裁判所に雇用契約存続確認等請求訴訟を提起し、現在も依然として原告会社の従業員たる地位にある旨主張して、右地位の確認等を求めているけれども、右訴訟に先立って提起した地位保全の仮処分申請事件においては、既に、昭和五八年四月二一日限り、雇用期間の経過により原告会社の従業員たる地位を失ったものとの認定、判断をされ、右仮処分の申請を却下されているのである。このように、既に訴外永島が原告会社の従業員たる地位にないとの司法判断が存在する以上、たとえ右司法判断が仮処分事件におけるものであっても、被告労働委員会は、前記のとおり、司法裁判所をさし置いて労組法の解釈、適用をする権限を有していないのであるから、右司法判断の拘束を受け、これと異なる認定、判断をすることはできないものというべきところ、本件命令は、訴外永島が原告会社が雇用する労働者であると認定したうえ、原告に参加人組合との団体交渉を命じているのであって、事実上右司法判断と牴触するのみならず、参加人組合の原告に対する集団圧力行使を容認して司法判断を歪める結果を招来し、法秩序を破壊するものであるから、その違法なること明らかである。
(一一) 右(一)ないし(一〇)で述べた事情を総合考慮するとき、原告は、参加人組合から訴外永島の解雇問題について申入れられた団体交渉を拒否できる正当理由があるというべきであるから、右団体交渉を命じた本件命令は、違法である。
3 なお、本件命令の「第1認定した事実」に対する認否は、次のとおりである。
(一)(1) 1の(1)の事実は認める。
(2) 同(2)の事実のうち、参加人組合が、全国の港湾産業及び関連産業で働く労働者で組織する個人加入の単一労働組合である全日本港湾労働組合の地方組織である点は否認し、その余は不知。
(二)(1) 2の(1)の事実のうち、訴外永島が、昭和五七年四月二一日淀川公共職業安定所の紹介を受け、翌二二日原告会社に採用されたことは認めるが、その余は否認する。
(2) 同(2)の事実は認める。
(3) 同(3)の事実は認める。
(4) 同(4)の事実は不知。
(三)(1) 3の(1)の事実は不知。
(2) 同(2)の事実のうち、尾崎ら四名が原告会社を訪れ、「組合加入通知書」、「団体交渉申入書」を手交したことは認める。
(3) 同(3)の事実は認める。
(4) 同(4)の事実のうち、古川業務部長が検討する旨述べたとの点は否認する。
(5) 同(5)の事実は認める。
(6) 同(6)の事実は認める。
(7) 同(7)の事実は認める。
4 よって、原告は、本件命令の取消を求めるため本訴に及んだ次第である。
二 請求原因に対する答弁
1 被告
(一) 請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。
(二) 本件命令の理由は、別紙命令書理由欄記載のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはないから、本件命令は適法であり、原告主張の違法事由は存しない。
2 補助参加人
(一) 請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。
(二)(1) 原告の請求原因2の(一)、(二)、(四)、(五)、(六)の各主張は、いずれも、参加人組合のような横断的組織の労働組合は、労組法上適法な組織とはいえず、その組合員を代表して、原告ら特定企業との間に団体交渉をする権利を有しないとの見解を前提にするものであるが、右見解は、憲法、労働法の解釈を誤った原告独自のものであって理由がないから、右見解を前提にする右各主張もまた当然理由がない。
(2) 原告の請求原因2の(三)、(七)、(一〇)の各主張は、いずれも労組法によって定められた不当労働行為制度そのものの否定、もしくは労働委員会制度に対する誹謗にすぎず、理由がない。
(3) 原告の請求原因2の(八)の主張に対する反論は、次のとおりである。
原告は、訴外永島は、昭和五七年四月二二日原告会社に雇用期間一年の約定で雇用された旨主張するけれども、訴外永島は、淀川公共職業安定所の紹介に基づき、原告会社が求人票で示していた労働条件に従がい、雇用期間の定めのない常傭労働者として雇用されたものであるから、原告の右主張は事実に反する。
なお、訴外永島は、別紙命令書の第1、2、(2)に記載のとおり、雇用期間を昭和五八年四月二一日までとする昭和五七年一〇月二二日付の契約書に署名、捺印しているけれども、右契約書は、原告会社の詐欺的言辞並びに労使関係上圧倒的優位にある原告会社の強制により、訴外永島が困惑ないし欺罔された結果、右署名、捺印を余儀なくさせられたものであって、右署名、捺印により何らの法的効力が生じるものではないのである。
従って、訴外永島は、現在もなお原告会社の従業員たる地位にあるというべきであり、仮に、この主張が理由がないとしても、訴外永島、原告を相手取り、大阪地方裁判所に雇用契約存続確認等請求訴訟を提起し、右と同様の主張をして、原告会社の従業員たる地位を有することの確認等を求め、右地位の喪失を争っているのであって、このような場合、少なくともその争いが裁判所等の第三者機関によって解決されるまでは、労組法七条二号の関係ではなお原告が雇用する労働者にあたるというべきであるから、いずれにしても、参加人組合は、その組合員である訴外永島を代表して、その使用者である原告と団体交渉をする権利を有するというべきであって、原告の請求原因2の(八)の主張は、理由がない。
第三証拠関係
本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件命令の基礎となった事実関係について、別紙命令書の「第1認定した事実」に沿って順次検討する。
1 1の(1)の事実は、当事者間に争いがない。
2 1の(2)の事実は、(証拠略)によってこれを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
3 2の(1)の事実のうち、訴外永島が、昭和五七年四月二一日淀川公共職業安定所の紹介を受け、翌二二日原告会社に採用されたことは当事者間に争いがなく、その余の事実は、(証拠略)並びに弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
4 2の(2)、(3)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない外、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、訴外永島は、(3)記載の雇用契約存続確認等請求訴訟において、(2)記載の契約書は、原告会社の詐欺的言辞並びに労使関係上圧倒的優位にある原告会社の強制により、困惑ないし欺罔された結果署名、捺印したものであるから無効である旨主張していることが認められる。
5 2の(4)の事実は、弁論の全趣旨によりこれを認めることできる。
6 3の(1)の事実は、(証拠略)並びに弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。
7 3の(2)の事実のうち、尾崎ら四名が原告会社を訪れ、「組合加入通知書」、「団体交渉申入書」を手交したことは当事者間に争いがなく、その余の部分は、原告において明らかに争わないから、自白したものとみなす。
8 3の(3)の事実は、当事者間に争いがない。
9 3の(4)の事実のうち、古川業務部長が検討する旨述べたとある部分を除くその余の部分は、原告において明らかに争わないから、自白したものとみなす。
10 3の(5)、(6)、(7)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
三 右認定の事実関係に基づき、原告主張の本件命令の違法事由(請求原因2)について、順次判断する。
1 原告は、労組法上の労働組合を適法に結成しうる権限を有する労働者とは、同法三条によれば、賃金、給与その他これに準ずる収入によって生活する者をいうと規定されているから、特定の企業から賃金を支払われている従業員のことである。そして、このような特定企業の従業員が少くとも過半数結集して労働組合を結成しないかぎり、労組法上の労働組合といえず、ここに、わが国においてはいわゆる企業別組合が支配的大勢として定着している理由があるのであり、これに対し、参加人組合のような横断的組織の労働組合にあっては、その組合員は、特定企業の従業員として、労働組合の結成等のいわゆる団体行動権を行使しているものとはいえないから特定企業との結び付きを欠くことになって、労組法三条にいう労働者とはいえなくなり、従って、参加人組合は、右規定にいう労働者により組織されていないから、労組法上の適法な労働組合とはいえない旨主張する。
然しながら、参加人組合が、全国の港湾産業及び関連産業で働く労働者が組織した労働組合であることは前記認定のとおりであるところ、労組法二条本文は、労働組合の組合員たる労働者について、その範囲を特定の企業に使用される従業員に限定していないし、労働組合を組織すべき組合員の数についても、特定企業の全員ないし過半数を要件としていないのであるから、労働組合は、原告が主張するような企業別組合のみならず、ある企業の従業員が、その人数の多少にかかわらず、その企業の範囲を超えて、例えば、参加人組合のように、特定の産業、業種について、いわば横断的に結合することによっても組織し得るものというべきであり、このように横断的に組織された労働組合であっても、労組法二条の要件をみたす限り、労組法上の適法な労働組合であり、労働組合運動を保障されていることは一般の企業別組合と変らないのであって、このような労働組合の組合員であるからといって、直ちに原告が主張するように労組法三条にいう労働者にあたらないといえないことは多言を要するまでもないところであり、原告の右主張は、独自の見解であって採用できない。
2 原告は、原告会社が労組法上の使用者として労働組合を結成できるのは、原告会社の従業員だけであって、原告会社以外の他の企業の従業員は、たとえ原告会社の従業員と合同してみても、右のような労働組合を結成することはできないものというべきところ、参加人組合は、原告会社の従業員が組合員となって結成した組織ではないから、原告会社が参加人組合にとり労組法上の使用者にあたらないことは明らかであり、原告会社と団体交渉をする権利を有しない旨主張する。
然しながら、参加人組合のような横断的組織の労働組合であっても労組法上の適法な労働組合であり、労働組合運動を保障されていることは前記1説示のとおりであって、参加人組合の組合員中に原告会社が雇用する労働者が含まれている限り、参加人組合は、右労働者の代表者として、その使用者たる原告会社と団体交渉をする権利を有するものと解すべきである(労組法六条、七条二号参照)。然るところ、訴外永島が、参加人組合の組合員であり、かつ、昭和五七年四月二二日原告会社に雇用された従業員であることは前記認定のとおりであるから(なお、訴外永島は、その後雇用期間が経過したとして原告会社から、その従業員たる地位を否認されているけれども、訴外永島が右地位の喪失を争っている限り、労組法七条二号の関係では、なお原告会社に雇用される従業員にあたるものと解すべきことは、後記8説示のとおりである。)、参加人組合は、訴外永島の代表者として、原告会社と団体交渉をする権利を有するものというべきであって、原告の右主張は、独自の見解に基づくものであり採用できない。
3 原告は、被告は、不当労働行為事件の審査において、司法裁判所をさし置いて労組法の解釈、適用をする権限を有しないから、参加人組合が労組法三条にいう労働者により結成された適法な労働組合であるとか、原告が、参加人組合にとり労組法上の使用者にあたるとか認定したのは、違法な権限の行使である旨主張する。
然しながら、労働委員会は、不当労働行為事件において、労働者あるいは労働組合から申立があると、調査、審問を行なったうえ、事実の認定をし、この認定に基づいて不当労働行為の成否を判断し、救済命令や棄却命令を発する権限を有するのであって(労組法二七条一項、四項参照)、右権限には、当然認定された事実に対する労組法等の法律の解釈、適用という準司法的権限も含まれているものと解すべきであるから、被告は、原告主張の事項についても当然これを認定、判断する権限を有するものというべきであって、原告の右主張は、独自の見解であり採用できない。
4 原告は、参加人組合が、原告会社の従業員が組合員となって結成した団体ではない以上、原告会社の従業員を代表する権限を有しないから、仮に訴外永島が原告会社の従業員であり、かつ、参加人組合の組合員であったとしても、参加人組合は、訴外永島を代表する権限を有しない旨主張する。
然しながら、訴外永島が、原告会社が雇用する従業員であり、かつ、参加人組合の組合員である以上、参加人組合が訴外永島を代表して原告会社と団体交渉をする権利を有すること前記2説示のとおりであるから、原告の右主張は、独自の見解であって採用できない。
5 原告は、参加人組合は、その組合規約上組合員らに対して賃金を支払う者を特定、具体化していないから、自己の団体組織に対する労組法上の使用者を確定していないことになり、結局、労組法二条本文所定の適法な労働組合とはいえない旨主張する。
然しながら、参加人組合は、特定企業の範囲を超えて横断的に組織された労働組合であるから(このような横断組織の労働組合であっても労組法上の適法な労働組合であり、労働組合運動を保障されていることは、繰返し説示したとおりである。)、所属組合員各個の使用者と個別的に団体交渉をする権利を有するものであり、従って、組合規約上組合員らに対して賃金を支払う者を特定、具体化していないからといっても、そのような事項は組合規約上の必要的記載事項ではないばかりか(労組法五条二項参照)、参加人組合にとり、その団体交渉の相手方となるべき労組法上の使用者を確定し得ないものではないから、原告の右主張は、独自の見解であって採用できない。
6 原告は、参加人組合のような横断的組織の労働組合を労組法上の適法な労働組合であると認めると、労働組合の結成は、特定企業との結び付きが要件とされなくなるから、組合員となる者をどのように定めるかは労働組合の自由に任せられることになり、その結果、個々の労働者は、複数の労働組合に加入する自由が認められ、特定の同一労働者が複数の労働組合から代表されることになり、かくては同一企業で労働者を代表する労働組合が特定、単一のものに限られなくなるばかりか、複数多重化するおそれがあるのであって、これでは労働組合が労働者を代表して使用者と団体交渉をするという労働者代表制を否定することに繋がりかねず、実際的妥当性を失なうことになる旨主張する。
然しながら、特定の同一労働者が、複数の労働組合に加入することが認められるかどうかは、横断的組織の労働組合に特有の問題として生起するものではないばかりか、その加入を認めるかどうかは当該労働組合の自主的判断に委ねられるべきものであり、複数の労働組合に加入が認められても、その加入を認めた各労働組合は、権利の濫用にわたらないかぎり、それぞれ独自の立場で当該労働者を代表してその使用者と団体交渉をする権利を有するものと解すべきであるから、なんら原告のいう労働者代表制を否定することにならないのであって、原告の右主張は、独自の見解であり採用できない。
7 原告は、労働委員会が、救済命令で団体交渉を命ずる場合、労使間でそのような作為を命じうる制度化した事実、例えば団体交渉に関する労働協約、労使慣行等の事実が必要であり、このような制度化した事実が存在しない場合には、単に団体交渉の拒否を禁止することができるだけにとどまるものと解すべきところ、本件においては、右のような制度化した事実が存在しないから、原告に参加人組合との団体交渉の作為を命じた本件命令は、違法である旨主張する。
然しながら、労組法が労働委員会の行政処分により不当労働行為からの救済をなさしめようとした趣旨は、使用者による労働基本権侵害行為によって生じた状態を、救済命令によって直接是正することにより、正常な労使関係秩序の回復、確保を図るとともに、使用者の多様な不当労働行為を予想してあらかじめその是正措置の内容を具体的に特定しておくことが困難かつ不適当であるため、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限を委ねることにあるものと解すべきであるから、労働委員会は、団体交渉拒否の不当労働行為事件において、使用者に対し、右裁量に基づき、単に団体交渉の拒否を禁止するだけにとどまらず、原告のいう作為を命じうる制度化した事実がなくとも、当然団体交渉の作為を命じうる権限を有するものというべきであって、原告の右主張は、独自の見解であり採用できない。
8 原告は、昭和五七年四月二二日訴外永島との間に締結した雇用契約は、雇用期間を一年とするものであったから、訴外永島は、昭和五八年四月二一日限り、右雇用期間の経過により原告会社を退職し、原告会社の従業員たる地位を失ったので、労組法七条二号にいう使用者(原告)が雇用する労働者とはいえず、従って、訴外永島の解雇問題について、参加人組合と団体交渉をすべき義務はない旨主張する。
然しながら、訴外永島は、前記二4に認定したとおり、原告会社との右雇用契約は期間の定めのないものであり、また、訴外永島が昭和五七年一〇月二二日付の契約書に署名押印したのは、原告会社の詐欺的言辞ないし強制によるものであり、右契約は無効であるから、原告会社が雇用期間の終了を理由にその就労を拒否しているのは不当解雇にあたる等と主張して、原告会社の従業員たる地位の喪失を争っているのであり、このように、従業員がその地位の喪失を争っている場合、その従業員の主張が容れられたときには引続き従業員たる地位を保有することになるのであるから、右従業員は、右争いが最終的に解決されるまでは、労組法七条二号の関係ではなお使用者が雇用する労働者にあたると解するのが相当である。
従って、参加人組合は、訴外永島の代表者として、その使用者である原告と団体交渉をする権利を有するものというべきであるから、原告の右主張は、理由がなく採用できない。
9 原告は、訴外永島の解雇問題なるものは、訴外永島個人の問題であって、労働組合の団体交渉事項にはならない旨主張する。
然しながら、労働組合は、解決可能な事項である限り、組合自身のためのみならず、組合員のためにも使用者と団体交渉をする権限を有するのであって(労組法六条参照)、組合員の解雇等の個人的な労働関係についての紛争も当然に団体交渉の対象となるものと解すべきであるから、原告の右主張は、独自の見解であって採用できない。
10 原告は、訴外永島が原告会社の従業員たる地位にないとの仮処分事件における司法判断が既に存在する以上、被告労働委員会は、右司法判断の拘束を受け、これと異なる認定、判断をすることはできないものというべきところ、本件命令は、訴外永島が原告会社が雇用する労働者であると認定したうえ、原告に参加人組合の団体交渉を命じているのであって、事実上右司法判断と抵触するのみならず、参加人組合の原告に対する集団的圧力行使を容認して司法判断を歪める結果を招来し、法秩序を破壊するものであるから、違法である旨主張する。
然しながら、労働委員会は、不当労働行為事件において、裁判所による司法救済とは別に、労使関係に専門的な行政機関として、独自の立場で、前記3・7に述べたような準司法的権限を行使して救済命令等による行政救済を遂行する職責と権限を有するものであって、不当労働行為の成否に関する事実の認定については格別の法的規制も受けていないのであるから、同一の事案に関する裁判所の事実認定や判断に何ら拘束を受けるものではないというべきである。従って、被告が、本件命令を発するにあたり、訴外永島を原告会社が雇用する労働者であると認定、判断し、これが、原告が主張するように、仮処分事件における司法判断と抵触していても、それだけで直ちに本件命令が違法となるものではなく、また、そのことが格別司法判断を歪め法秩序を破壊するものともいえないから、原告の右主張は、独自の見解であり採用できない。
11 原告は、右1ないし10に記載の違法事由を総合考慮すれば、原告は、参加人組合から訴外永島の解雇問題について申入れられた団体交渉を拒否できる正当理由があるというべきである旨主張する。
然しながら、原告が主張する右1ないし10に記載の違法事由がいずれも理由がないこと前記説示のとおりであり、右各事由を総合考慮しても、原告に、右団体交渉を拒否できる正当理由があるとは認められないから、原告の右主張もまた理由がなく採用できない。
四 そして、以上認定、説示したところによれば、原告は、訴外永島の解雇問題について、ともかく参加人組合(但し、その建設支部)から申入れのあった団体交渉に応じて話し合う機会をもつべき義務があると認められるから、原告の右団体交渉の拒否は、労組法七条二号に該当する不当労働行為といわざるを得ない。
従って、被告が原告に対し、右団体交渉に応ずべきことを命じたのは正当であり、本件命令に原告が主張するような違法事由はない。
よって、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 木村修治 裁判官 波床昌則)
別紙 命令書
申立人 全日本港湾労働組合関西地方本部
代表者 地方執行委員長 山本敬一
被申立人 千代田工業株式会社
代表者 代表取締役 遠越英行
上記当事者間の昭和六〇年(不)第二号千代田工業事件について、当委員会は、昭和六〇年五月八日の公益委員会議において合議を行った結果、次のとおり命令する。
主文
1 被申立人は、申立人の建設支部から昭和五九年一一月一五日付けで申入れのあった申立人の組合員永島庸の解雇問題に関する事項について、申立人の建設支部と誠意をもって団体交渉を行わなければならない。
2 被申立人は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記
年 月 日
全日本港湾労働組合関西地方本部
地方執行委員長 山本敬一殿
千代田工業株式会社
代表取締役 遠越英行
当社が、貴組合建設支部から昭和五九年一一月一五日付けで申入れのあった貴組合員永島庸氏の解雇問題に関する団体交渉を正当な理由なく拒否したことは、大阪府地方労働委員会において労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為であると認められましたので、今後このような行為を繰り返さないようにいたします。
理由
第1 認定した事実
1 当事者等
(1) 被申立人千代田工業株式会社(以下「会社」という)は、肩書地に本社を置き、パイプ曲加工機等を製造販売しており、本件審問終結時その従業員は約四〇名である。
(2) 申立人全日本港湾労働組合関西地方本部(以下「組合」という)は、全国の港湾産業及び関連産業で働く労働者で組織する個人加入の単一労働組合である全日本港湾労働組合の地方組織であり、その組合員は、本件審問終結時約七、〇〇〇名である。
なお、組合には、その下部組織として建設関連労働者を中心に組織されている建設支部(以下「支部」という)がある。
2 永島庸の解雇問題について
(1) 永島庸(以下「永島」という)は、昭和五七年四月二一日、会社提出の求人票にもとづき淀川公共職業安定所の紹介で、翌二二日会社に採用された。
なお、この求人票には、職種はトレーサー、雇用期間は常用、定年は五五歳である等の記載がなされていた。
(2) その後永島は、特別職(嘱託)として一〇月二二日から五八年四月二一日まで勤務する旨の一〇月二二日付けの契約書に署名・押印した。
(3) 五八年四月二二日、会社は雇用期間が終了したとして永島の就労を拒否した。そのため、同日永島は、雇用は期間の定めのないものであり、会社の扱いは不当解雇であるとして、大阪地方裁判所に地位保全仮処分を申請した。
一〇月一七日、同裁判所は、雇用は終了したものとして申請を却下した。
同月二六日、永島は、この決定を不服として大阪高等裁判所に抗告したが、同裁判所は、五九年一月一九日、同抗告を棄却した。
なお、永島は、抗告する一方で五八年一一月一八日、大阪地方裁判所に雇用契約存続確認等請求訴訟を提起しており、同訴訟は審問終結時現在同裁判所に係属中である。
(4) 五九年一月、永島は、解雇を不当として裁判で係争中である旨の証明により雇用保険法上の失業給付の仮給付を受けた。
3 永島の解雇問題を議題とする団体交渉について
(1) 永島は、五九年二月頃から組合加入について組合と相談を行い、七月九日組合に加入した。
(2) 一一月一五日、支部執行委員長尾崎勝治(以下「尾崎」という)、同書記長原田憲治、同執行委員樋口和男及び永島〔以下「尾崎ら四名」という〕が会社を訪れ、業務部長古川義忠(以下「古川業務部長」という)及び田村某に対して、「組合加入通知書」及び「団体交渉申入書」を手交して永島の組合加入を通知するとともに、永島の解雇問題に関する団体交渉を会社の事務室又は組合事務室において同月二二日に開催するように申し入れた。
(3) 同月一九日、会社は、この申入れに対して支部に同月一七日付けの「口上書」を送付した。
この口上書には、「当法人は、貴組合に対する使用者の立場にないので、団体交渉応諾義務がないと理解します」との旨記載されていた。
(4) 尾崎らは、団体交渉開催の要求日であった同月二二日に再度会社を訪れ、古川業務部長及び竹本某に対し、会社には団体交渉応諾義務がある、当事者の交渉により平和裏に解決を図りたいとして、同月三〇日に団体交渉を開催するよう再度申し入れた。
これに対して、古川業務部長は検討する旨述べた。
(5) 会社は、支部に同月二八日付けの「口上書」を送付した。
その内容は、組合の会社に対する団体交渉権を認めるものではないことを付言した上で、双方の「立合人」を三名以下とすること、期日は一二月六日午前一〇時から一二時までとすることなどを条件に、議題は組合の申入事項に限定して「拝聴する」というものであった。
(6) 同月六日、当日の会場である淀川産業会館には、組合側が尾崎ら四名、会社側は相談役遠越準一、古川業務部長及び竹本某の三名が来ていた。
会社は、組合側が四名来ているのは一一月二八日付け「口上書」の条件に反するものであり、話合いはできないと述べた。
これに対して、尾崎ら四名は、会社が三名に固執するのであれば一人は書記役として発言させない旨の提案を行ったが、会社はこれを了承せず、結局その日の話合いは行われなかった。
尾崎ら四名は、あくまで平和裏に解決を図りたいので一二月二〇日までに交渉をもちたい、同月一一日までにこれについての回答を欲しい旨要請したが、会社からは何らの回答もなかった。
(7) そこで、同月一一日、尾崎が会社に電話したところ古川業務部長は、「一一月一七日付け口上書のとおりである。会社は、団体交渉開催要求に応諾の意思はない」旨述べた。
第2 判断
1 本件申立てが行為の日から一年を経過しているとの主張について
(1) 会社は、永島との雇用期間満了日である五八年四月二一日から本件申立日である六〇年一月二九日までに一年間が経過しているので、組合には本件申立ての資格がないと主張する。
よって、以下判断する。
(2) 本件解雇問題が発生したのが五八年四月二二日であり、申立日である六〇年一月二九日までに一年間が経過していることは会社の主張のとおりである。
しかしながら、本件申立ては永島の解雇問題そのものについての救済を求めるものではなく、同人の解雇問題についての団体交渉の応諾を求めるものであり、組合からの団体交渉開催の申入れを会社が最終的に拒否したのは前記認定第1、3(7)のとおり五九年一二月一一日であるから、行為の日から一年を経過したものでないことは明らかであり、会社の主張は失当である。
2 団体交渉拒否について
(1) 当事者の主張要旨
<1> 組合は、会社が団体交渉応諾義務があるにもかかわらず、再三にわたる組合の開催要求を正当な理由なく拒否しているのは、不当労働行為であると主張する。
<2> これに対して、会社は、以下の点から会社には団体交渉応諾義務はなく、拒否には正当な理由があると主張する。
ア 組合は、特定事業所との結び付きを欠くものでいわゆる合同労組型の組織であって、労働組合法上の適法な組織とはいえない。
イ 仮に組合が労働組合法上の適法な組織であるとしても、永島の退職問題が発生した時点で永島は組合員ではなかったことなどからみて、組合は雇用する労働者の代表者とはいえない。
ウ 本件解雇問題に関する仮処分申請において会社の主張が採用され、又現在本訴において係争中であるので、その件について団体交渉に応じるのは司法に介入することになる。
エ 永島は、「契約期間満了による退職」として自ら離職の手続きをしており、もはや団体交渉の対象は存在しない。
オ 本件のような個々の労働条件についての団体交渉を認めるのは、労働基準法第二条第一項に違反する。
カ 組合は、目的貫徹のために過激な行動をしており、団体交渉により解決を図るための相互の信頼関係を欠いている。
よって以下判断する。
(2) 不当労働行為の成否
<1> まず前記会社の主張アについてみるに、特定事業所との結び付きの有無は何ら労働組合法上の組合としての要件ではなく、しかも組合が資格審査において同法第二条及び第五条第二項に適合するものであることは当委員会において顕著な事実であり、その主張には根拠がない。
<2> 会社の主張イについてみるに、永島が不当解雇として争っていることは前記認定第1、2(3)のとおりであり、そうである以上永島は労働組合法第七条第二号の「雇用する労働者」であると解すべきであり、組合は雇用する労働者の代表者にあたるというべきである。
<3> 会社の主張ウについてみるに、仮処分に関して永島の主張がいれられず現に本訴で争われていることは、前記認定第1、2(3)のとおりである。
しかし、裁判で争われているとしても、当事者間で団体交渉によって解決することを妨げるものではなく、会社の主張には理由がない。
<4> 会社の主張エについてみるに、永島は自主退職であることを認めたのではなく、争っていることの証明を受けた上で雇用保険法上の失業給付について、仮給付を受けていたことは前記認定第1、2(4)のとおりであり、会社の主張は事実に反し失当である。
<5> 会社の主張オについてみるに、組合が団結権行使として個々の労働者の労働条件を問題とすることは当然認められており、会社の主張は失当である。
<6> 会社の主張カについてみるに、確かに組合は六〇年一月二九日に本件申立てを行った以降である二月八日に会社に対して三〇名程で抗議行動を行ったのをはじめ、その後においても会社や社長宅周辺へのビラまきなどを行っている事実が認められる。
しかしながら、組合が抗議行動を行ったのは、会社が団体交渉をかたくなに拒否したためこれに対する抗議として行ったものと解せられ、その原因はむしろ会社側に存するというべきであり、会社の主張は失当である。
以上要するに、会社の主張はいずれも正当な理由があるものと認められず、このような会社の行為は正当な理由なく団体交渉開催を拒否したものというべきであり、労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為である。
(3) 救済方法等
組合は、組合との直接の団体交渉開催を求めるが、団体交渉開催の申入れは支部からなされたことからみて、主文1のとおり支部と行うように命ずるのが妥当と思料される。
又、組合は、陳謝文の手交のほか掲示をも求めるが、主文2の救済をもって十分救済の実を果たし得ると考えるのでその必要を認めない。
以上の事実認定及び判断により、当委員会は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条により、主文のとおり命令する。
昭和六〇年五月二八日
大阪府地方労働委員会
会長 後岡弘